気密性能数値と断熱性能


前提条件


JIS A 1516-1998 サッシ・ドアの気密性能試験方法が規定されています。

JIS 「A-4グレード」 気密性等級「2等級」の場合 
「10 Paの室内外気圧差の場合 通気量の許容値 q≦2(m3・h・m2)」
「50 Paの室内外気圧差の場合 通気量の許容値 q≒≦10(m3・h・m2)程度」

2010年現在流通している住宅用サッシは一般的に気密性等級「A-4グレード」です。
簡単に説明しますと、サッシの内外に10 Paの気圧差がある場合、サッシ1m2当り1時間当り 2.0 m3の漏気を許容しているという事です。
サッシの内外に50 Paの気圧差がある場合、サッシ1m2当り1時間当り10 m3の漏気を許容しているという事です。

まず、現在市販されている気密性等級「A-4グレード」の住宅用引き違いサッシのカタログ表示用ではなく気密性能実験結果の通気量を参考資料から抜粋してみます。

10 Pa時 q≒≦1.7(m3・h・m2)
50 Pa時 q≒≦4.5(m3・h・m2)

気圧差が5倍(50 Pa)になっても通気量は3倍程度の増分勾配になります。

引き違いサッシの場合、メーカーは実際の気密性能を向上させるとサッシの値段が急激に上昇するのであえて気密性能を上げないそうです(結果的に売りにくくなる為)。

(ビル用サッシは住宅用サッシと比較して実際の気密性能は格段に良いです。)

※一部のサッシメーカを除いて、気密性能の実験結果(実質通気量の数値)はなぜか公表していません。

高気密住宅の気密測定試験で算出される「相当隙間面積=C値」の基準になっている内外圧力差も10 Paです。

ここまでが前提になります。


気密性能の変動幅


「R-2000住宅」の規定では、検討時の室内外の気圧差を50バスカルとしています。
実際の室内外の気圧差は、第三種換気(室内へ自然給気+機械排気)の場合、50Pa~にもなると言われています。

別の見方をしますと、気密化して計画換気(特に第三種換気)をするとアルミサッシ開口部の気密性能基準通気量の3~5倍「q≒6~10(m3・h・m2)」以上の通気が生じると考えられます。

すなわち、通気や漏気による分の熱損失が3~5倍になる可能性を十分考慮するべきであるという事です。

又、風の影響が非常に大きいのです。風が吹くと室内外に気圧差が生じます。風速3m/sで≒-20 Pa~45 Paの気圧差が生じてしまいます。

色々な影響で内外気圧差は大きく変動してしまうのです。この結果、熱損失が大きくなってしまいます。


気密性能の実情


H13年度に国土技術政策総合研究所と建築研究所が行った実態調査によると、「相当隙間面積=C値」は普通の在来工法でも平均5.5cm2/m2、2Х4工法で2.1cm2/m2という調査報告があります。
気密を意識しないで造られた家でも気密性能は、かなり高くなっているというのが実情です。


換気における給気口の給気量について


高気密と言える相当隙間面積C値=2.0cm2/m2の場合、設置した給気口からの給気量の割合は全給気量の33%程度しかないという専門家の研究報告(道立寒地住宅都市研究所居住環境科長(当時)工博・福島明氏)があります。
給気口があるといっても、給気のすべてが給気口から入ってくるわけではなく、残りは隙間から入ってきているのです。
著しい隙間風は問題ですが、隙間からの空気の出入りも大切な換気であるということです。

気密測定は温熱性能の一部を評価する指標ではありますが、上記の理由から「相当隙間面積=C値」だけにこだわらず、 熱損失に安全率を考慮した検討をするよう心がける必要があると思います。

このような事を考慮して開口部の設計を行う必要があります。


サッシの開閉方法による気密性能


サッシメーカは開口部の気密性について、開閉方法別に気密測定試験結果(実質通気量)の数値も公表していません。

開閉方法が違っても同じ「A-4グレード」と表記されています。メーカーに問い合わせをしても「公表している数値は確保している」としか回答して来ません。

しかし、実際の気密性能はサッシの開閉方法によって大きく違います。

引き違い窓と開き窓とFIX窓と上げ下げ窓・・・では
枠と障子の召し合わせやパッキンの形状が違いますのでここから流れる漏気の量が違います。

IBECで公表しているサッシの熱貫流率の数値には開閉形式の違いが分類されておりません。
よって、開閉方式の違いが熱貫流率にどの程度反映されているのか不明です。

IBECの「気密性を高める」というページに「気密性を高めるという事は、窓の大きさや形状とは全く関係のないことです。」と記載されていますが、これは壁や天井・床などにおいて、部材と部材の間に生じる“すき間”をできるだけ少なくするということを意味します。

サッシ自体は施工により気密性を向上させられるものではないという意味合いからの記載であると思います。

何故かと申しますと、気密測定試験の試験条件にサッシやドアは鍵をかけるだけとされている事から相当隙間面積にはサッシ自体の漏気の影響が含まれているのです。

同じ面積のサッシの場合、引き違い窓と比べ「開き窓」(すべり出し等も同様)では10倍ほど気密性能が高いと言う実験報告もあります。

少しだけ隙間を開けておきたい・網戸の取付問題などの使用上の利便性から引き違い窓が多用されますが、 開放感と気密性を考えると開き(両開き)窓にすると公表数値には現れない気密性能効果が得られます。

最近では高気密化が花盛りですね。
気密測定で数値がはっきり出ますから建物の断熱性能としてアピールし易いのでしょう。

サッシやドアからの構造上の漏気(気密性能値)は、相当間隙面積:C値に換算すると床面積120m2程度の住宅で「0.35cm2/m2」程になるようです。


気密シート工法


室内側気密シートによって気密された外壁や設備配管周り・ユニットバス床等の気密漏れをゼロに近づける為には慎重な施工が不可欠です。

上記でも説明した通り、気圧の変動や温度差等により漏気は大きく変動してしまいます。

「気密施工を施した外壁等からの漏気」と「サッシ等の開口部の気密性能による漏気」がどのような割合になっていのるかわからないと、結局の所、気密シートの施工をした所からの漏気が正確につかめません。

壁内結露が絶対駄目と言うのであれば、室内の水蒸気は多少にかかわらず繊維系断熱材内に進入させてはいけないはずですし、夏季の湿度の高い空気が断熱層に進入するわけですから、冷房を効かせると一時的にでも結露は生じる可能性があります。

長期間結露し続けるのでなければ、通気層への放湿や木材の吸湿によって結露は改善される事もあります。

少しでも結露したら絶対NGと言うのでは無く不朽に繋がるような結露状態とならない様に配慮するべきではないかと思います。

「少しの隙間→水蒸気の移動→温度変化→内部結露→即カビ・腐朽→構造の欠陥」という短絡的な考えはすこし強引すぎると思います。

構造体の含水率もゼロではありませんので、含水していた水分が蒸発して又結露する事もあります。この場合は、元の構造体に吸湿されて周囲の繊維状断熱材には影響が少ないと言われていますが。

C値のみ拘ってみても、現状の気密試験方法では漏気が開口部からなのか壁等からなのかはっきりとした区別が出来ないのです。

当方が推奨する気密試験方法は、窓やドア等もすべて気密シートで塞いで試験をして測定した後、所定の開口部を元に戻して試験を行ってみれば本来の漏気対象がはっきりわかると思います。
しかし、このような方法をとっている会社は存在しないでしょう。

外壁等からの漏気がそんなに気になるのであれば、上記の推奨方法を考慮すべきではないでしょうか。
気密試験は気密施工後と工事完了前の2度行われるのですから、初めの試験を変更してみても良いかもしれません。