住宅建築時の問題点①

建築基準法の問題点(2階建木造建築物の暴風時及び地震時水平耐力が決定的に不足している理由)

木造住宅の耐震性能は建築基準法・施行令46条で規定されています。

実は、施行令46条の規定は、建物に生じる地震力や風圧力の2/3の水平力で筋交い計算を行う様になっています。

要するに建物に生じる地震力や風圧力の1/3は、計算外の雑壁等が負担するという前提で建築基準法・施行令46条が作られています。
(建築士でもこの根拠を知らない方が非常に多いです。)

これは、建築基準法・施行令46条で規定されている最小壁量で許容応力度等の計算(令第81条第2項の正式な構造計算で最低限の構造耐力を確認する方法)による構造計算を行うと所要水平耐力が全く不足する事からも検証できます。

すなわち、施行令46条の規定をぎりぎり満足する建物の場合、建築基準法では別途「令第81条第2項の許容応力度等の計算」の耐力計算を要求していませんが、許容応力度等の計算を行ってしまうと必要耐力が満足せず、危険であるという結果が出てしまうのです。これは見方を変えると法に抵触してしまう事を意味します。

木造2階建ての場合、法で「令第81条第2項の許容応力度等の計算」検討を要求されていなにもかかわらず自らこの検討を行った場合、耐力計算結果が不足していて法に抵触するような結果が出たとしても法的には耐力壁の水平耐力に問題は無いと言っているようなものです。非常におかしな論理です。

よーく考えてみてください。建築基準法・施行令46条には「地震力や風圧力の1/3は計算外の雑壁等で負担するものとする」と特記や説明書きはないのです。
何という手抜き条文でしょう。

すなわち、条文だけを信じれば、施行令46条をクリアすれば建物は安全であると信じられています。
経験豊富な建築士でもこの実情を知らない方が大勢存在します。

木造耐力壁の耐力評価は厳密には非常に難しいですが、施行令46条規定量の耐力壁しか配置していないと、本来必要とされる水平耐力の66.6パーセント(全体の2/3)しか耐力を確保出来ない事になります。

すなわち、本来は施行令46条規定量の耐力壁の1.5倍(1/0.666)の壁量が必要であると言う事と同じなのです。

これは、住宅性能表示の耐震等級3で必要とされる構造耐力(施行令46条規定量の耐力壁の1.5倍)と同じであるとも言えると思います。

住宅性能表示の耐震等級3では「準耐力壁」・「一定条件を満たした垂れ壁・腰壁」を計算上考慮して施行令46条規定量耐力壁の1.5倍の強さを要求しています。

本来この耐力が建築基準法上最低限の耐力規定のはずなのです。

批判的な言い方をすると、施行令46条の不備を任意の制度を作って(多少の特典を付けて)満足させようとしているとも言えると思います。

長年施行令46条の規定で築造されてきた膨大な既存住宅の事を考えると今さら「この規定では耐力不足の可能性が高い」とも言えない(法改正がやりにくい)官僚事情もあると思います。

日本の標準的な木造2階建である1階部分にLDKや開放された和室が連続するプランですと、戸や襖はありますが、地震時等水平力の1/3を負担できるほど準耐力壁等に匹敵する計算外の壁が存在していないという実情も考慮しなければなりません。

よって、実設計においては最低でも建築基準法施行令46条の必要壁量の1.5倍(検定値が0.66以下)~2.0倍は設計時の耐力壁が必要であるという事です。

施行令46条の必要壁量の筋交い計算書での検討の場合は1階の検定値が0.66以下(全体の2/3を負担した時に余裕が1/3残っている)となる様な余裕があるかを確認しておきたいですね。

計算外の壁が過不足無く且つ釣り合いよく配置されていれば問題はないのでしょうが、そこまで検討するのであれば、正式な許容応力度等の計算を行った方がどれだけ楽で正確か分かりません。

又、建築基準法施行令46条の必要壁量の規定を作成した当時の建物の各部位の想定荷重と現在の荷重では現在の方が重くなっています。これは危険側に働きます。
この分も余分に考慮すべきです。

建築基準法上の許容応力度等の構造計算を行っていれば、実際の建物重量で地震力を算定して必要壁量を計算しますから施行令46条の必要壁量の規定は必ずクリアされ安心です。

本来、建築基準法施行令46条策定時に水平力の1/3は準耐力壁で負担すると名文化し、準耐力壁の規定を追加しておくべきだったのです。

近年では木造住宅所有者に耐震診断をするように促して、補助金まで出して住宅を補強させようとする国の政策にもある意味で悪意を感じます。
診断などしなくても耐力壁が不足する事は殆ど分かっているのですから。

法令(中途半端な耐力規定で作成された法令)の不備により不足しているであろう水平耐力を別の方法で満足させようとしているとしか思えません。

又、2階は寝室として細かく区切られ、1階は広々としたオープンスペースとなれば、建物の高さ方向に強度差(剛性率といいます)が生じます。
結果的に1階に外力が集中し強度的にネックになるのは周知の事実です。